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神戸地方裁判所 昭和54年(ワ)977号 判決

原告 耕守喜治郎

被告 国

代理人 森修三 大西富郎 大西良平 ほか二名

主文

一  原告が神戸市垂水区名谷町字猿倉二八九番の東側に隣接して所在する無番地の土地のうち、別紙図面表示のイ、ロ、ハ、ニ、ホ、ヘ、ト、チ、リ、ヌ、ル、オ、ワ、カ、ヨ、タ、レ、ソ、イの各点を順次直線で結んだ線で囲まれた部分について所有権を有することを確認する。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その四を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告が神戸市垂水区名谷町字猿倉二八九番の東側に隣接して所在する無番地の土地のうち、別紙図面表示のイ、ロ、ハ、ニ、ヤ、ク、オ、ヌ、ラ、ナ、ネ、ツ、ワ、カ、ヨ、タ、レ、ソ、イの各点を順次直線で結んだ線で囲まれた部分について所有権を有することを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  神戸市垂水区名谷町字猿倉(以下、同所所在の土地は地番のみで表示する。)二八九番の東側に隣接して所在する無番地の土地のうち、別紙図面表示のイ、ロ、ハ、ニ、ヤ、ク、オ、ヌ、ラ、ナ、ネ、ツ、ワ、カ、ヨ、タ、レ、ソ、イの各点を順次直線で結んだ線で囲まれた部分(以下、「本件土地」という。)は原告の所有である。

(一) 本件土地は、もと乙二八九番田一畝一五歩(一四八・七六平方メートル)と表示登記がされ、訴外山本泰子外二名の所有に属していたが、昭和二六年一一月一四日、原告が右訴外人らから買い受けてその所有権を取得した。

(二) 仮に、右主張に理由がないとしても、原告は、前記のように訴外山本泰子外二名から本件土地を買い受けた昭和二六年一一月一四日、本件土地の占有を開始し、現在も自動車置場等として使用して占有を続けているところ、占有の始めに過失はなかつたから、昭和三六年一一月一四日、本件土地について取得時効が完成しており、仮に、占有の始めに過失があつたとしても、昭和四六年一一月一四日には取得時効が完成している。

そこで、原告は右取得時効を援用する。

2  前記のとおり、本件土地は、登記簿上乙二八九番と表示されていたが、その後、右乙二八九番が二八九番の三及び同番の四に分筆され、後者の土地について訴外日本道路公団に対する所有権移転登記が経由された際、誤つて地籍図上同番の三及び四は本件土地のはるか東方に記載され、現在、本件土地は、登記されていないいわゆる無番地となつている。そして、そのため、被告は、本件土地が国有地であると主張して、本件土地が原告の所有に属することを争つている。

3  よつて、原告は被告との間で、本件土地が原告の所有に属することの確認を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1項冒頭の事実は否認する。同(一)の事実中、原告がもと登記簿上乙二八九番田一畝一五歩(一四八・七六平方メートル)と表示されていた土地の所有名義人であつたことは認めるが、本件土地が右乙二八九番に該当すること及び原告が本件土地を訴外山本泰子外二名から買い受けたことは否認する。同(二)の事実中、原告が本件土地のうち平地部分を昭和二六年当時から占有しており、現在右部分が駐車場等として使用されていることは認めるが、原告に占有の始め過失がなかつたとの点は否認し、その余の事実は知らない。

2  同2項の事実中、二八九番の三及び四の地籍図上の記載が誤まつてなされたとの点は否認し、その余の事実は認める。

三  抗弁

1  原告の本件土地に対する占有は所有の意思に基づくものではない。

(一) 原告は、昭和五〇年ころ、近畿財務局神戸財務部に赴き、国有地取得手続について相談しているが、その対象物件は本件土地であつた。

(二) また、昭和五二年八月一一日、本件土地の西側の二八九番の土地について、近畿財務局神戸財務部が境界明示を行つた際、原告はこれに立会い、本件土地のうち「キシ」部分が国有地であることを認めた。

(三) 右事実によれば、原告が本件土地ないしは本件土地の一部である「キシ」部分が国有地であることを認識していたことが明らかであるから、原告は、本件土地ないしは本件土地の一部である「キシ」部分につき、所有の意思を有していなかつたものと推認される。

2  仮に、本件土地について原告の取得時効が完成しているとしても、原告は、前記1の(一)、(二)記載のとおり、本件土地ないしは本件土地の一部である「キシ」部分が国有地であることを承認したから、これにより時効援用権を喪失した。

四  抗弁に対する認否

何れも否認する。

第三証拠<略>

理由

一  <証拠略>を総合すれば、原告は、昭和二六年一一月一三日、山本泰子外二名から、同人ら所有の二七〇番外九筆の土地を買い受けたが、右売買の対象には登記簿上乙二八九番田一畝一五歩と表示されている土地が含まれていたこと及び原告は、右売買の際、仲介人である訴外吉田長一から登記簿上乙二八九番と表示されている土地は本件土地に該当する旨説明されたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

しかし、<証拠略>中の本件土地がもと登記簿上乙二八九番と表示されていた土地に該当する旨の原告の主張に沿う部分及び<証拠略>中の右原告の主張に沿う記載部分は、<証拠略>に照らしてたやすく信用できず、他に右原告主張事実を認めるに足りる証拠はない。

従つて、原告が本件土地を売買によつて取得したものとは認められない。

二  そこで、次に時効取得の主張について判断する。

1  原告が昭和二六年当時から本件土地のうちの平地部分を占有していることは、当事者間に争いがない。

2  <証拠略>を総合すれば、原告は、昭和二六年一一月一四日ころ、本件土地のうちの平地部分の引渡しを受け、その後、右土地を耕作し、又は自動車置場等として他に貸し渡すなどして占有していること及び本件土地のうちの傾斜地部分についても、その一部に孟宗竹を植え、同所に生えていた山桃の実を収穫するなどして利用していたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

そして、<証拠略>を総合すれば、別紙図面表示のイ、ロ、ハ、ニ、ホ、ヘ、ト、チ、リ、ヌ、ル、オ、ワ、カ、ヨ、タ、レ、ソの各点を順次直線で結んだ線で囲まれた土地が前記平地部分(以下、「平地部分」ともいう。)に該当し、同図面表示のニ、ヤ、ク、オ、ヌ、ラ、ナ、ネ、ツ、ワ、オ、ル、ヌ、リ、チ、ト、ヘ、ホ、ニの各点を順次直線で結んだ線で囲まれた土地が前記傾斜地部分(以下、「傾斜地部分」ともいう。)に該当すること及び右傾斜地部分は、平地部分に接続して下方に傾斜している土地であつて、平地部分を支持する法面となつていることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定の事実及び前記争いのない事実によれば、原告は、昭和二六年一一月一四日ころ、本件土地の占有を開始し、その後引き続き現在に至るまで本件土地を占有しているものと認めるのが相当である。

3  そして、原告が時効の利益の援用をしたことは本件記録上明らかである。

三  ところで、被告は、原告が昭和五〇年ころには、近畿財務局神戸財務部に赴いて本件土地の取得手続について相談し、また、昭和五二年八月一一日には、本件土地のうち「キシ」部分が国有地であることを承認しており、本件土地が国有地であることを認識していたことは明らかであるから、原告の本件土地の占有は所有の意思を欠くものであると主張する。

しかし、他人の所有物であることを認識しつつ所有の意思をもつてその物を占有することは、民法一六二条一項の予定するところであり、しかも、右はいずれも被告の主張自体から時効完成後の行為であることが明らかであるから、右のような行為があつたとしても、後記のように時効成立後の承認の問題が生ずるのは別として、それだけでは原告の占有が占有の当初から所有の意思を欠くものであつたということはできず、他に、原告の本件土地に対する占有が所有の意思を欠く他主占有であつたことを認めるに足りる証拠はない。

四  そうすると、原告の占有開始時の過失の有無について判断するまでもなく、昭和四六年一一月一三日の経過により、仮にそうでないとしても、遅くとも同年末には、本件土地につき原告のために二〇年の取得時効が完成したものというべきであるところ、被告は、原告において本件土地ないしは本件土地の一部である「キシ」部分が国有地であることを承認した旨主張するので、この点について判断する。

1  <証拠略>によれば、原告は、昭和五〇年ころ、近畿財務局神戸財務部に赴いて、同部に勤務する右証人に国有地取得手続について相談しており、その対象物件は本件土地の全部または一部であつたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

しかし、原告は、被告の係官が本件土地は国有地である旨主張するので、仮に国有地であるとすれば払下げを受けたいと考えて、その手続がどうなるかを相談したのにすぎないとも考えられるので(現に、原告本人尋問の結果(第二回)中にはこれに沿う部分がある。)、右事実から直ちに原告が本件土地は国有地であることを承認したものと認めることはできない。

2  <証拠略>を総合すれば、昭和五二年八月一一日、本件土地の西側の二八九番の土地について近畿財務局神戸財務部が境界明示を行つた際、原告はこれに立会い、本件土地のうち傾斜地部分である「キシ」の部分(前記のとおり傾斜地部分は別紙図面表示のニ、ヤ、ク、オ、ヌ、ラ、ナ、ネ、ツ、ワ、オ、ル、ヌ、リ、チ、ト、ヘ、ホ、ニの各点を順次直線で結んだ線で囲まれた土地に該当する。)が国有地であることを承認したことが認められる。

なお、原告本人尋問の結果(第一、二回)中には、右承認をしたのは傾斜地部分のうち、山桃のあるところ(検証の結果によれば、別紙図面表示のナ点の西方附近と認められる。)より北の部分である旨の供述部分があるが、右供述部分は証人山尾繁美の証言及び前掲乙第四号証(同証によれば、前記境界明示は、別紙図面表示のナ点を越えた南方にまで及んで行われていることが認められる。)に照らしてたやすく信用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定の事実によれば、原告は、本件土地のうち傾斜地部分については、時効の援用権を喪失したものというべきである。

五  平地部分が原告の所有に属することを被告が争つていることは、当事者間に争いがない。

六  以上によれば、原告の本訴請求は、本件土地のうち、傾斜地部分を除いた平地部分である別紙図面表示のイ、ロ、ハ、ニ、ホ、ヘ、ト、チ、リ、ヌ、ル、オ、ワ、カ、ヨ、タ、レ、ソ、イの各点を順次直線で結んだ線で囲まれた土地が原告の所有に属することの確認を求める限度で理由があるから、これを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 笠井昇)

別紙図面<略>

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